デジタル資産を“見える化”──資産も思い出も守る生前準備

【重要な免責事項】 本記事は 2025年7月時点 の法令・制度に基づく一般的な解説です。今後の法改正や個別事情によって取り扱いが変わる可能性があります。地域や各窓口の運用も異なるため、最終的な判断や申請手続きは必ず 弁護士・司法書士・税理士などの専門家 へご相談ください。

【重要な注意事項】 本記事では分かりやすさを優先し、一部の例外規定や詳細要件を省略しています。読者の資産状況・家族構成によっては別の方法が適切な場合があります。

はじめに

ネット銀行や暗号資産、SNSアカウント――「画面の向こう側」にある財産や思い出は、家族が知らないまま本人が亡くなると「存在に気づかれず」「パスワードも分からず」消滅しかねません。
故人との大切な思い出や、残されるはずの財産が失われることで、遺族は深い後悔と大きな手間を抱えることになります。
本記事では、デジタル資産が相続できなくなる典型パターンと、法制度・技術面での課題、そして生前に取れる現実的な対策を整理します。

・「父がネット証券で運用していたらしいが、ログインできず残高が不明」
・「知らない間に動画サービスの月額料金が半年も引き落とされていた」
こうした相談は年々増えています。背景にあるのは デジタル化 × 超高齢社会。便利さの裏側で、相続人が資産や契約を見落とすリスクが膨張しています。

目次

  1. デジタル資産とは?
  2. 相続で起きやすい4つのトラブル
  3. ポイント解説:法律・技術・契約の壁
  4. パスワードや暗号鍵の安全な共有方法
  5. いますぐできる5つの生前対策
  6. よくある質問(FAQ)
  7. 最新情報(2025年7月時点)
  8. まとめ

1. デジタル資産とは?

A. 金銭的価値のある資産

  • A-① ネット金融資産
    1. ネット銀行の口座残高(例:楽天銀行、PayPay銀行など)
    2. ネット証券の保有残高・株式・投資信託(例:楽天証券、SBI証券など)
  • A-② 暗号資産
    1. 暗号資産ウォレットの秘密鍵・シードフレーズ(ビットコイン、イーサリアムなど)
    2. NFT の保有情報(プラットフォーム、トークンID)
  • A-③ 電子マネー
    1. 電子マネー残高(例:Suica、楽天Edy、PayPay)
    2. ポイント残高(例:楽天ポイント、Tポイント、dポイント)
    3. 航空マイル(例:ANAマイル、JALマイル)

B. 「思い出・契約」が重要な資産

  • B-① メディア(写真・動画)
    1. デバイス内ローカル保存(PCフォルダ、スマホの写真・動画)
    2. クラウド保存先(Google Photos、iCloud、Dropbox など)
  • B-② アカウント
    1. メールアカウント(Gmail、Outlook など)のログイン情報
    2. SNSアカウント(Facebook、Twitter、Instagram、LINE など)
    3. ブログ/CMS(WordPress、note など)の管理者アカウント
  • B-③ サブスク
    1. VOD(Netflix、Amazon Prime Video、Hulu など)
    2. クラウドサービス(Microsoft 365、Google Workspace など)
    3. 音楽配信(Spotify、Apple Music など)

管理・継承のポイント

  • 保管場所:パスワード管理ツール、金庫、法的文書 など
  • アクセス手順:手順書やエマージェンシーアクセス設定
  • 責任者・代理人:家族や信頼する第三者への共有方法

➡︎ 詳しくは 4.パスワードや暗号鍵の安全な共有方法 で解説します。

2. 相続で起きやすい4つのトラブル

トラブル具体例損害・混乱
存在を知らない相続後にネット銀行や暗号資産が見つかり、残高不明遺産分割のやり直し、
期限後申告、税務上の問題
アクセスできないスマホロック解除不能でデータや連絡先が取り出せない大切な思い出の消失
葬儀連絡の遅延
規約で承継不可サブスク契約が一身専属で解約のみ、データ消失課金継続、データ消失
法制度の空白暗号資産の秘密鍵※5を紛失、海外取引所のみの利用資産の回収不能

3. ポイント解説:法律・技術・契約の壁

  • 民法上「物」ではない
    デジタルデータは無体物※2であるため所有権の対象外であり、相続は各サービス規約に依拠します。
  • 一身専属性※3
    利用規約で「第三者譲渡不可」と定められたアカウントは原則相続不可とされています(例:動画配信、SNS)。
  • 技術的障壁
    スマートフォンやPCのロック解除には専門会社を頼む必要があり、半年から1年かかる事例もあります。
  • 暗号資産の秘密鍵問題
    ウォレット※4のみで保有している場合、秘密鍵が分からなければ回収不能リスクがあります。
  • 海外先行ルール(米 RUFADAA※6)
    米国のRUFADAAでは、生前設定、遺言、その他書面の優先順位で受託者にアクセス権を付与しています。

4. パスワードや暗号鍵の安全な共有方法

デジタル資産の継承において、最も重要な課題の一つが、パスワードや秘密鍵といったアクセス情報の安全な共有です。ここでは、その代表的な方法と、それぞれのメリット・リスク、そしてどの資産タイプに適しているかを解説します。

1. 代表的な手法と概要

  • 紙に書いて金庫等で保管
    ID・パスワード/秘密鍵/サービス一覧を紙に記入し、封筒を封印して耐火金庫や貸金庫に保管する方法。
    国民生活センターは「もっとも手軽でハッキング耐性が高い」と紹介しています。
  • パスワード管理ソフト
    一部の管理ソフトでは、死亡や長期不在をトリガーに、あらかじめ指名した連絡先へ保管庫を開放できます。
  • 暗号化USBなどのオフライン媒体
    秘密鍵や大容量の暗号化データをネット非接続の物理デバイスに保存し、デバイス本体と復号パスワードを別々に管理します。
  • 専門家・信託先への封印預け
    公証人・司法書士・信託銀行などに封筒や暗号化メディアを預け、死亡時に開封・引き渡しを指示する方法。
  • 主要クラウド機能
    Apple「故人アカウント管理連絡先」やGoogle「アカウント無効化管理ツール」を設定しておくと、写真・クラウドデータなどを家族が取得できます。ただし金融系アカウントや外部サービスには適用されません。

2. 手法別 メリット・リスク

手法主なメリット主なリスク・課題
紙+金庫オフラインでハッキング耐性高い
高齢者にも分かりやすい
火災・紛失・更新忘れ
保管場所の共有が必須
パスワード管理ソフトログイン情報を自動で最新化
一括で渡せる
サービス停止・
マスターパス紛失で復元不可
USB(オフライン媒体)ネット非接続でマルウェア耐性
大容量データを格納可
デバイス故障・経年劣化
復号パス紛失で読めない
封印預け専門家保管で真正担保
相続手続きと一体で引渡し可
手数料・更新手続きの手間
クラウド機能本人確認をサービス側が実施
写真・クラウド文書の取得が容易
対象は当該サービス内データ限定
設定漏れがあると効果ゼロ

3. 手法別 「資産タイプ適合度」一覧

手法A①
ネット金融
A②
暗号資産
A③
電子マネー等
B①
メディア
B②
アカウント
B③
サブスク
紙+金庫△¹
パスワード管理ソフト△²△³
USB(オフライン媒体)△⁴△⁴△⁵△⁵
封印預け△⁶
クラウド機能×××△⁷

¹ 写真・動画ではなく「保存場所やロック解除コード」を記載して回収補助。 ² 秘密鍵を「安全なメモ」に保存可能だが、セキュリティリスクが高いため推奨されない³ クラウド写真のパスワード保存で取得補助だが、スマホロック解除は非対応。 暗号化ファイル保存で対応可能。 テキスト形式で格納すれば参照可。 デバイスやバックアップメディアを専門家に併せて保管依頼して部分対応。 iCloudやGmail内のメール・連絡先は引き継げるが、金融系ID/PWは網羅せず。

ポイント

  • 紙+金庫方式は依然として最も簡便で汎用性が高いものの、更新忘れや災害リスクへの二重化が必要です。
  • パスワード管理ソフトはオンライン認証情報の承継に有効ですが、暗号資産の秘密鍵の長期保管には向かない場合があります。
  • USBは暗号資産に最適ですが、復号パスの別保管を忘れると回収不能になります。
  • 封印預けは信頼度が高い一方、費用と更新手続きがデメリットです。
  • クラウド機能は写真やメールなどメディア・アカウントの回収専用と考え、金融系ログインや暗号鍵の承継には別手段を組み合わせる必要があります。

公的機関や業界ガイドラインはいずれも、複数手法を組み合わせて冗長化することを強く推奨しています。

5. いますぐできる5つの生前対策

ポイント:法整備を待たずに情報を残す仕組みを作る

  1. エンディングノート+パスワードカード
    ID・PW、利用サービス、秘密鍵の場所を紙にまとめ金庫へ保管します。
  2. 主要サービスの「故人設定」
    Apple「故人アカウント管理連絡先※9」、Google「アカウント無効化管理ツール※10」等で代理人を登録できます。
  3. 遺言で資産と取り扱いを明示
    金銭的価値があるデジタル資産は具体的に列挙し、遺言に記載することが重要です。
  4. 死後事務委任契約※7・民事信託※8の活用
    専門家に解約・照会を委任することで、遺族の負担を軽減できます。
  5. 「棚卸し」を習慣化
    家族に共有し、定期的な情報整理を心がけましょう。
    ※後述の iNFINITY Life などのサービスを利用すると便利です。

6. よくある質問(FAQ)

Q1. 暗号資産は相続税の対象になりますか?

はい。 国税庁は「経済的価値があるNFT・暗号資産は相続税課税対象」と明示しています。

Q2. パスワードを家族に教えたくないのですが?

修正テープでマスキングした「スペアキー」を金庫に入れる、信託契約で専門家へ託す等の方法があります。

Q3. サブスク料金の停止はどうすれば?

契約書類やカード明細からサービスを洗い出し、解約手続きを行います。死後事務委任契約で代行も可能です。

7. 最新情報(2025年7月時点)

  • 戸籍電子証明書を活用した死亡・相続ワンストップサービス※11
    2025年度に限定自治体で先行実証を行い、2026年9月以降に本格運用が開始される予定です。SNSや暗号資産ウォレットは対象外。
  • 預貯金口座とマイナンバー紐付け制度(任意)
    2025年4月から一括付番が開始。横断照会による調査負担軽減が見込まれます。

8. まとめ

  • デジタル資産は「存在不明」「アクセス不能」「規約×法律の空白」が三大リスク。
  • 金銭だけでなく写真・連絡先など思い出資産の喪失が遺族の負担となります。
  • 生前の情報整理・代理人設定が現状で最も有効な対策。
  • 法整備は途上中のため、個人・企業・政府の多層的対策が必要です。
iNFINITY Lifeコンビネーションマーク

iNFINITY Lifeで「見える化」しよう
iNFINITY Lifeは、ネット銀行や暗号資産だけでなく任意の資産まで一元管理し、家族と共有できるクラウドサービスです。"定期的な棚卸し"と連動して、デジタル資産の所在をリマインド。トラブルを未然に防ぐ第一歩として、ぜひご活用ください。

ご注意
iNFINITY Lifeにはパスワードや秘密鍵などの重要な情報は、絶対に登録しないでください
- 活用方法:
1. 機密情報は紙に控える
2. その紙の保管場所を、家族だけが分かるキーワードでiNFINITY Lifeに登録

※iNFINITY Lifeに限らず、アプリ・メール・SNS等でも共有することは大変危険ですので、登録しな事を強くお勧めします。もし使用する場合でも、十分注意し慎重にご利用ください。

用語解説

  • (※1)NFT — Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略。固有IDを持つため複製できないデジタル資産。
  • (※2)無体物 — 形のない財産(データ・権利など)を指す法律用語。対義語は有体物。
  • (※3)一身専属性 — 本人だけが権利者で、死亡しても相続による移転ができない性質を指す民法上の概念。
  • (※4)ウォレット — 暗号資産を保管・送受信するためのソフトウェアや専用デバイス。秘密鍵を管理する“財布”にあたる。
  • (※5)秘密鍵 — 暗号資産の送金・移転に必要な“鍵”となる文字列。第三者に知られると資産を奪われる恐れがある。
  • (※6)RUFADAA — Revised Uniform Fiduciary Access to Digital Assets Act。米国で採用されるデジタル資産承継モデル法。
  • (※7)死後事務委任契約 — 死亡後の手続き(葬儀、解約など)を第三者に委任する公正証書契約。
  • (※8)民事信託 — 家族や専門家に財産管理・承継を託す仕組み。遺言より柔軟に内容を設計できる。
  • (※9)故人アカウント管理連絡先 — Appleが提供する、死亡後に代理人がiCloudデータへアクセスできる設定機能。
  • (※10)アカウント無効化管理ツール — Googleアカウントで一定期間アクセスがない場合、設定した代理人に通知・データ共有する機能。
  • (※11)相続ワンストップサービス — 政府が提供予定のオンライン手続き窓口。死亡届から相続関連手続きを一括申請できる。

参考文献・出典

出典元タイトル投稿日
国立国会図書館 調査及び立法考査局「故人の遺したデジタルデータの相続等 ―インターネットを介したサービスの多様化と利用の広がりを受けて―」2024-03-26
国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」2024-12-20
デジタル庁「死亡・相続オンラインサービス」2025-05-13
Apple Inc.Apple Account の故人アカウント管理連絡先を追加する方法」
Google LLC「アカウント無効化管理ツールについて」

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