生成AIが切り拓く新しいシステム開発時代—「iNFINITY Life」で実感したコスト削減効果
生成AIを活用したシステム開発の実績と効果
生成AIを活用して開発コストを劇的に削減し、「iNFINITY Life(家族みんなの資産クラウド帳)」が"無料"で提供できるまで——。
本記事では、AIを最大限に活用し、企画・設計からテストまでスピード開発を実現した実績と、実際に担当した著者が感じたAIのメリット・デメリットをまとめました。

目次
- なぜiNFINITY Lifeは無料で提供できるのか
- 従来型 vs. AI支援開発フロー
- システム開発におけるAI
- AI活用比率
- AIによるシステム開発支援:長所と短所
- セキュリティ、ガバナンス
- まとめ
- 今後について
1.なぜiNFINITY Lifeは無料で提供できるのか
下記の改善により、基本機能を無料で提供できるようになりました。
※ただし、申し訳ございませんが、将来は追加機能を有料オプションとして提供する予定ですのでご了承ください。
①人件費削減
- ChatGPTを中核とした生成AIにより、SaaS原価の大半を占める人件費を大幅に圧縮
②勤務時間の壁を超える
- 24時間稼働するAIが勤務時間の垣根を超える
③小規模チーム+AI
- "AIパートナー"が意思決定を劇的に加速
2.従来型 vs. AI支援開発フロー
従来型
- 各工程ごとに専門担当者が複数つき、各工程での資料作成+MTGを積み重ねる
- 工程間の伝達用に、さらに資料を作成し、MTGを実施
- 問題や改善案が出た場合、工程を遡りやり直しを実施
※このやり直しは通常、手間と工費により、良いアイデアでも見送る場合や、問題点でも簡易的な対応にする場合が多く、リリース後のトラブルや品質低下を招くことがしばしば発生する
AI支援開発フロー
- 専任業務を極力減らし、マルチスキルの少数人材+AI支援により、資料作成・無駄なMTGを削減
- 全工程の横串レビューにAIを活用し、工程間の伝達をスムーズ化
- AIの業務効率により、上流工程から改修が必要な作業も一瞬で修正できるため、担当者は検認に専念でき、修正業務が効率化
3.システム開発におけるAI
システム開発フロー(従来)
# | 工程 | 主担当 | 協力者 |
---|---|---|---|
1 | 企画 | ITC | PM |
2 | 要件定義 | SA | PM, ITC, UXD |
3 | 基本設計 | SE | SA, DBA, UXD |
4 | 詳細設計 | SE | PG, DBA |
5 | 開発 | PG | SE, QA |
6 | コードレビュー/静的解析 | SE/QA | PG |
7 | 単体テスト設計 | SE | QA |
8 | 単体テスト実施 | Tester | PG, SE |
9 | 結合テスト設計 | SE | QA |
10 | 結合テスト実施 | Tester | SE |
11 | 総合テスト設計 | QA | SE |
12 | 総合テスト実施 | QA/Tester | SE, PM |
13 | 受入テスト(UAT) | ユーザー側担当 | PM, SE |
14 | 運用準備・移行 | PM/SE | DBA, 運用 |
15 | リリース | PM | 運用, SE, PG |
16 | 運用・保守 | 運用/保守チーム | PM, SE |
各役割の説明
ITC(IT Consultant):ITコンサルタント
経営課題とIT戦略を橋渡しし、投資対効果の試算やRFP作成、ベンダー選定支援など企画段階をリードする。
SA(System Analyst):システムアナリスト
現行業務を分析してAs-Is/To-Beを整理し、要求整理・要件定義書の作成と合意形成を担当する。
SE(System Engineer):システムエンジニア
基本設計・詳細設計の作成、アーキテクチャ策定・技術選定、テスト設計やコードレビューを行う。
PG(Programmer):プログラマー
ソースコードを実装し、単体テストの実施・バグ修正・リファクタリングを通じて機能を完成させる。
PM(Project Manager):プロジェクトマネージャー
進捗・コスト・品質・リスク・人員を統括管理し、ステークホルダー調整を行ってプロジェクト成功を保証する。
DBA(DataBase Administrator):データベース管理者
論理/物理DB設計、チューニング、バックアップ/リカバリ設計、パフォーマンス監視でデータ基盤を維持する。
QA(Quality Assurance):品質保証(テストマネージャー)
品質基準策定とテスト計画を立案し、テスト工程を統括して品質評価レポートを作成し、プロセス改善を推進する。
UXD(UX Designer):UI/UXデザイナー
ユーザー体験を設計し、ワイヤーフレーム・プロトタイプ作成、ユーザビリティテスト、デザインガイドライン策定を担当する。
AI支援開発フロー(今回の導入事例)
要件定義(工程1, 2)
- 市場調査、システム化のアイデア出し
設計(工程3, 4)
- 必要構成の洗い出し、設計書ドラフト作成(UI構成・画面設計・DB概要)とレビュー
開発(工程5, 6)
- クライアント側プログラム(HTML/CSS/JavaScript)をAI生成。
※サーバー側は、不正なコードの混入を防ぐため、AIの介入なしに人がすべて実施。ただし不明点や不具合改善のアドバイザーとして活用(潜在的なバグ、セキュリティ脆弱性、コーディング規約違反、パフォーマンス改善など)
テスト設計(工程7, 9, 11)
- テスト方針・テスト項目基本案、テストデータ/期待値データの生成を支援
テスト実施(工程8, 10, 12)
- 自動化ツール生成と実行、Web画面のレイアウト・動作チェック
※工程13以降はAI導入なし。
4.AI活用比率
# | 工程 | AI | 人間 |
---|---|---|---|
1 | 企画 | 5 | 5 |
2 | 要件定義 | 3 | 7 |
3 | 基本設計 | 5 | 5 |
4 | 詳細設計 | 8 | 2 |
5 | 開発 | 5 | 5 |
6 | コードレビュー/静的解析 | 8 | 2 |
7 | 単体テスト設計 | 9 | 1 |
8 | 単体テスト実施 | 8 | 2 |
9 | 結合テスト設計 | 8 | 2 |
10 | 結合テスト実施 | 3 | 7 |
11 | 総合テスト設計 | 3 | 7 |
12 | 総合テスト実施 | 1 | 9 |
5.AIによるシステム開発支援:長所と短所
長所(メリット)
- 意思決定の高速化
複数の関係者による会議調整や認識合わせに費やされる無駄な時間を削減し、AIの即時応答性により意思決定プロセスを劇的に加速しました。 - 指示の高度な理解
複雑な指示や曖昧な表現でもAIは素早く意図を理解し、適切な提案を生成してくれます。 - 指示のしやすさ
PCの入力ミスや日本語の変換ミス、接続詞の誤りなども判断し、意図を汲み取って対応してくれるので、「てにをは」を気にせず、気軽に指示ができます。 - マルチタスク
AIによる生成作業は高速ですが、わずかな待機時間が発生します。この時間を活用して別の作業を進めることで、効率的に複数のタスクを並行処理できました。
複数のAIツールを同時に利用すれば、さらに効率は向上します。例えばA、B の2つのAIを使用した場合、Aに指示 → Bに別の指示 → Aの回答を確認し次の指示 → Bの回答を確認し次の指示…といった作業ができました。 - 圧倒的な対応速度
どのような問題に対しても、AIは瞬時に何らかの回答を生成します。これにより、従来の情報収集にかかる時間が大幅に短縮されました。 - 時間帯を選ばない柔軟性
AIは24時間365日稼働するため、早朝や深夜を問わず、いつでも開発作業が可能です。 - 広範なアイデア生成
開発に行き詰まった際、AIは多様な方向性や内容のアイデアを提示してくれます。 - 感情に左右されない効率性
何度も修正指示を出しても人間関係の摩擦なく作業を遂行。 - 学習による生産性向上
AIは過去の指示やコンテキストを学習し、次の作業に活かすことができます。 - 品質の均一化
人間が担当すると生じがちなスキルや経験による品質のばらつきを抑制。
短所(デメリット)
- 推論の誤り(ハルシネーション)
AIは時に、事実に基づかない、実際には存在しない回答を生成することがあり(「ハルシネーション」と呼ばれる現象)、これにより間違った設計や開発を行ってしまうことがありました。
→ プロンプトを工夫することで発生頻度はある程度抑えられますが、完全に排除することはできていません。 - 精度の不安定さ
一度高い精度で設計書を作成できても、別の設計書を作成する過程で以前と同じような誤りを繰り返すことがありました。
→ 原因は恐らく、AIモデルが一度に保持できるコンテキスト量(トークン数)に制限があるため、過去の前提を参照しきれず一貫性が低下することが考えられます。今後、技術進化で改善が期待されます。 - 人間との連携における非効率性
人間が理解しやすいように設計書は、従来どおりの概要や図解を入れて作成していました。しかし、AIが概要だけを反映し詳細や図解を無視することがありました。
→ AIが理解しやすい形式に設計書を寄せれば解消できる可能性はありますが、今回の開発では最適な方法を確立できませんでした。 - 指示の難しさ
AIが指示どおりに成果物を生成しないケースがしばしば発生しました。
(人間同士でも誤解は起こりうるため、許容範囲内だと思いますが)
→ AIに明確かつ効果的な指示(プロンプト)を出すには、一定の慣れとスキル(プロンプトエンジニアリング)が求められると感じました。 - ブラックボックス性
AIが生成したコードについて、なぜそのように生成されたのか理解できない場合があり、特に信頼性や安全性が重視されるシステムではリスクを感じました。
→ 今後の改善余地は大きいものの、現段階では人間が介入してチェックする必要がありそうです。
6.セキュリティ、ガバナンス
AIをシステム開発に導入する上で、セキュリティとガバナンスについて私の考えをまとめました。
※これは一般公開しているAIを活用する場合の内容です。(企業内の専用AIを使用する場合が該当しません。)
重要機能は人間レビューの徹底
AIが生成するコードには、不要な処理や非効率な記述、潜在的な脆弱性が含まれる可能性があります。AIの出力はあくまで「提案」と位置づけ、信頼度・重要度の高い機能については必ず熟練した人間エンジニアによる厳格なレビューと検証を徹底する必要があると感じました。
セルフチェックによる品質向上
AIが生成したコードをAI自身(または別のAI)でセルフチェックさせることで、一定レベルのバグやセキュリティ上の誤りを早期に発見できました。
※「セルフチェックで発見できるなら、生成時に気づいて。」と突っ込みたくはなりますが。
データプライバシーと機密性の保護
〔企業内部で使用している専用AIは問題ありませんが〕
一般向けAIでは投入情報の漏えいリスクがあります。そのため、学習データ提供をオフにする設定に加え、重要な情報はマスクして投入するなどの工夫が必要です。
バージョン管理とトレーサビリティ
AIが生成したコードや設計ドキュメントも、人間が作成したものと同様に厳格なバージョン管理を行うべきです。できれば、どのAI(モデル名・バージョン)を使用したかまで記載しておけば、追跡可能なトレーサビリティを確保でき、問題の原因特定が容易になります。
教訓
AIは"セキュリティガイド役"として優秀ですが、現段階では重要なプログラムについて最終的な品質とセキュリティに対する責任は人間が持つ必要があると感じました。
7.まとめ
生成AIをフル活用することで、小規模チームでも短期間で高品質なシステムを構築できることが分かりました。体感としては平均で約30%(条件がそろえば最大で約60%)の工数削減効果を得られています。
8.今後について
現在は人的コストを抑えることで無料提供を実現しています。今後もAIを活用し、低価格で高品質なサービスを提供できるよう尽力する方針です。
ただし、ユーザー数の増加に伴い運用コストが発生するため、将来的には有料オプション(追加機能)の導入を検討し、より充実したサービスを提供したいと考えています。
今後もiNFINITY Lifeは「AI × 熟練エンジニア」のハイブリッド開発で、安心して使えるプラットフォームを拡張していきます。